いびき・閉塞性睡眠時無呼吸とナステント

A. ナステント(Nastent)は、一般医療機器として、認められていることから、安全にはかなりの注意を払い開発・製造されているようです。

発想は昔からあるネーザルチューブを、素材的により使いやすくしたものですが、このチューブが、のどに落ちてしまったとの症例があることが報告されています。米国のサンフランシスコ・シリコンバレーやフランスにも支店があるようですが、米国の学会ではまだ論文等の発表はありません。
C-PAPやいびき・睡眠時無呼吸用のスリープスプリント(マウスピース)にとって効果や費用対効果的にも、論文もなく、特にC-PAPのような効果は認められませんが、これらの処方をしても、C-PAP自体がつらかったり、いびき・睡眠時無呼吸用のマウスピースをつけると口腔内違和感があったり顎がいたくなる人には、その他の方法としてはいいかもしれませんが、まだ発表論文数がないので、効果の程は不明です。
睡眠時無呼吸をもっている患者さんが、鼻の通りを良くすれば、鼻詰まりのあるなしに拘らず、睡眠時無呼吸が改善されるという発想の装置ですので、その様なもので良くなるとしたら、睡眠時無呼吸の患者さんが寝るときに点鼻薬を使い鼻の通りを良くすれば、無呼吸が改善する事になりますが、実際にはそのようなことは無く、ナステントは本当に有効か疑問です。
睡眠時の無呼吸で煩雑に睡眠中に息が止まると、血中の酸素の濃度が極端に下がり、チベットの山の中で寝ているようなものです。
ひどい人は1時間に50回以上もおこるので、当然循環器・心臓に悪影響を及ぼします。
心臓に血液を送る血管に動脈硬化がおこることにより狭心症になり、この血管が塞がってしまうことにより心筋梗塞になってしまいます。
当院には、いびきが主訴で来院し、実は心臓の術後というかたもよくいます。
心臓の先生にいびきのことは言ったの?と質問しても、心臓の手術が成功したのでいびきと心臓が関係あるとは思わなかったという患者さんもいます。
そのような患者さんには潜在的なリスクを解消するためにも、睡眠時無呼吸の治療を特に勧めています。
寝ているときに、酸素が少ないと、酸素を取り込むために、人間は身体に力が入ってしまいます。
本人は寝ているので気がつきませんが、力んで血圧が高くなってしまい、脳卒中になるリスクが高くなります。
また空気の通り道である気道が狭くなってしまうことにより、無呼吸になり、酸素の脳への供給が少なくなり、脳卒中になってしまうリスクも増えます。
このように突然死の原因である心筋梗塞や狭心症や脳卒中・脳梗塞のリスクが、睡眠時無呼吸により高まってしまいます。
夜間に睡眠時無呼吸により、睡眠が障害され、自律神経機能の異常や、ホルモンの分泌にも悪影響を及ぼします。
交感神経系が刺激され、ストレスホルモンの分泌が増えることにより、血圧の上昇や、血糖値の上昇、体脂肪が増加して太ってしまうと考えられています。
睡眠中に分泌される成長ホルモンの分泌の低下がおこり、筋肉が減って脂肪が増えやすい体になってしまい、インスリン抵抗性が上がり、生活習慣病である糖尿病になりやすくなります。またすでに糖尿病の患者さんは、病気が悪化します。
滋賀医科大学の山田尚登先生のお話によると、低酸素ストレスを与えると、脳内に老人斑というべきアミロイドベータ蛋白質(認知症の大きな原因であるAlzheimer病の原因因子の一つで、脳にたまると脳内の神経細胞を破壊する)が増加するとの研究報告があり、睡眠時無呼吸になると認知症にいこうしやすいのでないかと考えられています。
睡眠時無呼吸の治療を行うことで認知機能が改善したとの報告もあります。
また睡眠時無呼吸の人でうつ病を合併している人が多く、睡眠時無呼吸を治療することで、うつ病が改善したという患者さんもいらっしゃるそうです。
長崎にある睡眠時無呼吸で有名な井上病院の吉嶺先生の報告では、230名のC-PAP治療患者を対象にして、C-PAPの治療前後の夜間の頻尿の回数について調査をしたところ、治療前では睡眠時無呼吸の重症度が高いほど夜間の頻尿回数が多いとの報告でした。
またC-PAP治療を開始すると頻尿回数が減少するとの報告がありました。
睡眠時の無呼吸になると心臓に負担がかかることにより、体内の循環血液量を減らそうと、おしっこを出す利尿ホルモンが分泌がでて、夜間に頻尿になってしまうのではないかとのことです。
C-PAPをつけることにより、心臓の負担が減少し、利尿ホルモン分泌が低下して、頻尿が少なくなると考えます。
当院では咽頭形成術の患者さんをたくさん見ていますが、確かに頻尿が減り、朝までぐっすり眠れるようになり、無呼吸だけでなく、睡眠の質まで改善したという声をよく聞きます。また睡眠時無呼吸は性ホルモンの分泌に悪影響を与えるので、前立腺癌や乳癌との関連性も指摘されております。
北海道大学大学院の石田晋教授らの研究では、正常人であれば息を止めると眼圧は上がるのですが、睡眠時の無呼吸の発作時は、気道が閉塞してしまい息が吸い込めなくなり胸腔内の圧力が下がり眼圧が下がってしまい、血液中の酸素が減り、視神経に障害を及ぼす可能性が高いとの報告をしました。
睡眠時無呼吸と診断された方は、一度眼科の検診も受けられた方がよいかと思いますし、緑内障でいびきがある方は、いびきを直すことにより緑内障の改善にもつながると考えます。